welcome to soup diner

vol.11 マイクの場合

ここスープ・ダイナーは、マスターが動物好きなおかげでペット同伴は大歓迎である。
本日のお客は、一人と一匹。アメリカからの留学生マイクと、彼の愛犬、ジニーだ。
ジニーは黒のラブラドールレトリバーで、今年で11歳。
人間の年でいうと、60歳くらいになるので、老犬といっても差しつかえないかもしれない。
だが、全身の毛並みはつやつやとしており、なにより、飼い主のマイクが誇らしいと思うのは、
賢者のごとく思慮深い目をしており、威厳があるところだ。

「やあ、マイク!ひさしぶり。ジニーも元気だったかい。」
マスターが、やさしくジニーの首をなでると、ジニーは嬉しそうにしっぽを振った。
「どうもお久しぶりです。僕もジニーもとっても元気でしたよ。」
マイクは、日本にきてまだ1年ほどだが、もともと日本の文化が好きで、
こちらにくる前から日本語を勉強していたため、かなり流暢で丁寧な会話をすることができる。
「あいかわらずマイクの話す日本語は、発音がきれいだなあ。」
カズトの言葉に、マイクは茶色く透ける髪をかきながら、ありがとうと明るくこたえカウンターに座った。
そしてジニーは、合わせるようにその側に行儀よく座った。
「ねえマイク。いつもそんな格好で平気なのかい。見てるこちらが寒くなるよ。」
マスターが、ジニーのミルクを入れるための容器を棚からとりだしながら、身震いして言った。
いつでもマイクは、半そでのTシャツなのだ。



今日は雲ひとつない快晴だったが、そうはいっても2月の風はまだまだ冷たい。
「大丈夫。僕の故郷の、ミネソタに比べたら、日本の冬はとても温かいです。」
そうでしょ、ジニー。と、言ってマイクは、同じようにどちらの冬も経験しているジニーの頭をなでた。
「それに、僕のハートは、今とてもホットなんです。ちっとも寒くないですよ。」
と、言ったかと思うと、わかりやすいくらい顔を真っ赤にして、へへへ、と笑った。
「おや?なにかいいことでもあったのかな。」
そうマスターが聞くと、マイクは、自分の愛犬を見てにっこりとして言った。
「彼は、愛のキューピットです。」
ジニーが、マスターの用意したミルクを見て、ぺロッと舌を出したので、笑ったような顔になった。

マイクは、いつも決まった公園に、ジニーの散歩にでかけることにしている。
ひとまわりするのに10分ほどしかかからない、比較的こじんまりした公園で、
家から近いことと、小さな池があってそこに色のきれいな鯉がいるところが気に入っている。
日本にきてから、ほぼ毎日のように通っているので、近所の犬の散歩仲間とも顔なじみになり、
今では、それぞれが飼っている犬の種類も、その名前も覚えるようになっていた。
ところがある日、いつものようにマイクが公園で、ジニーの散歩をしていると、
これまで見かけたことのない犬が、元気に走りまわっているのを見つけた。
リードがついたままで、飼い主はみあたらない。きっとご主人の手をすりぬけてきたのだろう。

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