vol.6 マスターの場合
「スープ・ダイナー」は人が多く行き交う通りから、ちょっとはずれたところにあるため
1日の営業時間中に、お客さんがだれもいないという時も、ままあったりする。
今日も、さきほどまでは、そこそこ忙しかったのだが、
今は、カウンターにはあと少しで夕暮れの色を運んでくるであろう
やわらかな日差しが差し込むだけで、お客はだれもいない。
そんな時いつもならマスターは、カズトのとりとめなく発せられる話に相づちをうったり、
彼の未熟な意見をからかったりして時間をすごすのが常であったが、
今日はその話相手であるカズトはいない。
遅い夏休みをとって実家の北海道に里帰りをしているのだ。
「向こうについたらいいもの送りますから、寂しがらないでください。」
そんな生意気なことを言い残して、帰郷したカズトが律儀に送ってきたダンボールが
さきほど届いたまま、まだキッチンの隅においてある。
暇になったことだしと、早速その荷をあけてみると、
中にはきれいな緑色の皮がついた、たくさんのトウモロコシがつまっていた。
ほのかに甘い匂いと、大自然をおもわせる青くささが、さわやかに店内を覆った。
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