welcome to soup diner

vol.5 常連客 朋恵(ともえ)の場合

「プール、海、遊園地。 もー。せっかく夏なのに、どこにもいけないよー!」
そういって、さっきからカウンターでストレスを爆発させているのは、
ただいま受験勉強真っ最中の高校3年の朋恵。
「はあぁー。なんのために勉強なんてするんだろう。」
「まった。そんなめんどくさいことに疑問をもちはじめるとなんにもできなくなるよ。
 微分積分なんて将来必要ない!なんて言い始めたら、もう末期だぞ。」
「あ。すでに思ってる。なんでわかるの、カズトさん。」
「そりゃあ、ぼくも2年前は朋恵ちゃんと同じ立場だったからね。とーぜん。」

「うわー。なに、その余裕な態度。ずるーい!」
どこか得意げなカズトの様子に、抗議したかと思うと朋恵は急におとなしくなった。
そしてもう一度「ちぇっ、ずるいなあ」と、言うと完全に黙ってしまった。
怒らせたかと思って、ごめんごめんとあわてるカズトと対照的に、マスターは
この年頃の女の子は大さわぎしたりおとなしくなったり忙しいものだ、と微笑ましく見ていた。
朋恵の頭にはふと、「ずるい」と思ったある人の顔がうかんだのだ。
それは同じバイト先の3歳年上の大学生の男の子。
クールで大人っぽいが、笑うと小さくなる目がとてもかわいい。朋恵は今、彼に片想いをしている。



彼を好きだという気持ちに気づいてから、どうしても目でおってしまう。
すると一見クールな彼は、実はさりげなくやさしくて親切だということがわかった。
そしてまたしばらくすると、そのやさしさは誰にたいしても公平であることがわかった。
そういうところも大好きなのだが、誰にでもやさしいなんてずるい、と思ってしまう。
あのやさしさが自分だけに向いていてほしい。これはわがままなんだろうか。

持ってきた参考書を前に、考えごとにはまってしまった朋恵に、マスターが声をかけた。
「おいおい大丈夫かい?さっきから一度も参考書をひらいていないけど。」
ふと現実に戻った朋恵は、そうだ、自分は受験生なんだと思ってため息をついた。
「うーん、いーの。これは、お母さんに友達の家で勉強するって出てきたから、持ってきただけ。」
「おや、いけないなぁ。お母さんにうそついちゃだめだよ。」
「だってー。勉強しろってほんとにうるさいんだもん。さっきもメールでね。ほら。」

『勉強は、はかどってますか?今日の夕飯はスタミナ抜群の焼肉よ。』
「ははは。こりゃあプレッシャーだな。」
「でしょー。しかも焼肉って。夏なんだからさ、もっとあっさりしたものにしてくれないかなー。」
「いや、バテやすいこの季節だからこそじゃないかな。これも親の愛だよ。」
「親の愛かあ。それも嬉しいけどさ。。。もっと違う愛がほしいー!」

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