vol.3 常連客 ユリ子の場合
「12ヶ月にランキングをつけるとしたら、6月は12番ですね。」
そう言ってカズトは洗った皿を拭いていた手を止め、外を見た。
さっきから、霧吹きでふいたようなこまかい点の雨が降り続いている。
「梅雨のこの独特な雨がいやなんですよ。
ドッサリと一気に降ってすぐにやんでしまえばいいのに。」
「ちょっとカズトくん。わたしはその6月に結婚するのよ。6月の悪口はストップ。」
そう言ってユリ子はカウンターのいつもの座っている席から抗議した。
「でもユリ子さん。6月は祝日もないんですよ。やっぱり最下位は免れませんよ。」
「カズトくんは大学生でしょ。あんまり祝日とか関係ないんじゃない?」
「まあ、そうですけど。」
ユリ子とカズトはいつも、軽口をたたきあっている。
まるで仲のよい姉と弟のようだとマスターはいつも思う。
「ユリ子さん、あらためて結婚おめでとう。もう結婚式の準備は終わったの?」
「ありがとう、マスター。ええもう、ほとんど終わり。
ただひとつだけ、大変な作業が残っているんだけど。」
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