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最終話 徳香(のりか)の場合

春の花といえば、やっぱり桜だ、とカズトは思う。
単純といわれようと、カズトは、なにか楽しいことがおこりそうな気持ちにさせてくれる春が大好きで、
そんな春の訪れを、元気いっぱいわかりやすく主張しているのが桜だ、と思うからだ。
いっぽうマスターは、梅が一番だという。
ひかえめな華やかさや、どことなく品があるところが好きな理由なんだそうだ。
「そういわれると、梅もいいなあ。」
と、カズトがあっけなく賛同すると、徳香に若いわねえと、笑われた。
徳香は、今年小学校に入学するサキちゃんという小さな女の子のお母さんだ。
いつもは親子でにぎにぎしくお店にやってくるのだが、今日は親戚が面倒をみているというので、
一人で来店しており、マスターやカズトとたわいもない世間話に興じていた。

「カズト君は女の子の好みも、そうやってころころ変わるんじゃないの?」
微妙にいたいところをつかれたようで、カズトは苦笑いした。
そんな浮気ものじゃないですよ、といいわけをしたカズトの言葉に、
徳香は笑っただけで軽くながし、わたしはね、ときりだした。
「春といえばチューリップかな。」
そういって、徳香はふんわり微笑んだ。
「チューリップかあ。それもいいね。春らしくて、かわいらしくて。」
今度は、マスターがあっさり賛同した。



「うちは、親子でチューリップが好きなの。ほら、サキちゃんの幼稚園の通学バックも。」
「そういえば、大きなチューリップがプリントされてましたね。」
カズトは、サキちゃんがお気に入りでいつも持っているバックを思い出した。
黄色や、赤い色のチューリップの花が布で形づくられており、
そのまわりには、ちょうちょが飛んでいる。なかなかの力作だ。
「あれ、わたしが縫ってあげたのよ。」
すごいでしょ、といわんばかりの、その誇らしげなその表情が、
いつもとどこか違っているような気がしてカズトは、おや、と思った。
普段のサキちゃんといるときの母親の顔ではなく、今日はどこか子供っぽささえ感じられた。

「昔ね。」
と、徳香は続けた。
「小さい頃、チューリップの絵を、母親にほめられたの。それがすごく嬉しくって。」
画用紙いっぱいにクレヨンでかかれた、色とりどりのチューリップ。
「だから、わたしはチューリップが大好きなのよ。」
今思えば、それは子供らしく不格好な絵で、説明されなければ、どれが太陽で、
どれが花で、どれが雲なのか、よくわからないような、ごくありふれた幼い絵だった。
それを母は、「すごく上手。のりちゃんは天才ね。」と、満面の笑みでほめてくれたのだ。

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