welcome to soup diner

vol.8 夕子(ゆうこ)の場合

「このあいだね、大学時代入っていたサークルの同窓会に、はじめて行ってきちゃったの。」
夕子は、かつて青春をともにした仲間たちと、約10年ぶりに会ったことを、
まるでちょっとしたミスを恥じいるような言い方で、カウンターの中のマスターに報告した。
「サークルって、何のサークルに入っていたの?」
いつものように、さらっと穏やかな調子でマスターがたずねた。
「写真サークルよ。全部で2〜30人はいたんだけど、みんなもう、ぜんぜん真面目じゃなくってね。
 写真を撮りに行く、という大義名分をたてては、みんなで旅行ばっかりしてたわ。」
どちらかというと、人との会話では聞き役が多い夕子だが、ここスープ・ダイナーでは
リラックスして自分の話をすることができるから、不思議だなといつも思う。

「やっぱりいつの時代も大学生なんて、そんなもんですよね。ちょっと安心しました。」
 現役大学生のカズトが、その年齢らしい、哀愁とは無縁そうな笑顔で言った。
「でもね、中に一人だけ、本当に写真を撮ることに真剣な男の人がいたのよ。
 ま、それはわたしがその当時、付き合っていた人なんだけど。」
なにをするにも真剣な人で、彼の自分への愛し方も真面目そのものだった。
「え!その人は同窓会にきたんですか?」
カズトの目は好奇心できらきらと輝いていた。
「ええ、きたわよ。あの人、毎年きちんと同窓会に顔を出していたの。そういう人なのよ。」



「それで、昔の恋が復活、なんてことはならなかったんですか?」
さらに興味深げに聞くカズトに、有子はぜーったい無い!と、即答した。
「何年も前に、ひととおり楽しいことや辛いことをやり終えた相手と、また恋愛するなんて。
そんな面倒くさいことができるのは、若い子か、よっぽど未練を残して別れた人だけよ。」
夕子は、すでに過ぎ去ったものは、それ以上でも以下でもないと、割り切れる大人になっていたし、
今は、一緒に暮らして4年になるパートナーのことを夕子なりに、きちんと愛していた。

「なぜそう思ったのかわからないけど、ただ、確認したかったの。あの人が今幸せなのか。」
彼とは、お互い社会人になって3年目くらいのとき、自分から別れを告げ、そして終わった。
『あなたの愛は重すぎる』 
それが別れの言葉だった。我ながら身勝手だったと、今になると思う。
しかしその時は、それはそれで本当の気持ちだった。
とてもいい本があるから、とすすめてくれたり、作ってあげた料理すべてを誉めてくれたり、
自分に悪いところがあると、真剣にしかってくれたり、たまに子供っぽくわがままを言ってくれたりと、
普通なら愛されている充足感を感じるであろうストレートな愛情表現が、息苦しく感じてしまったのだ。
今度は、もっと軽やかでクールな人とつきあおう。そう思って出会ったのが今の彼だった。
新しい彼は、ほどよい距離感を保ち、感情的になることもない夕子の付き合い方を、受け入れてくれた。
それは、とてもここちよく、これこそ自分がもとめていたスマートで、ベストな男女のあり方だと思っていた。

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