welcome to soup diner

vol.7 洋平(ようへい)の場合

ギターケースをかかえ、コンビニで買った缶ビールをもってくるその客に、
カズトはいつも、自分のペースがくずされるのを感じる。そして、今日こそ冷静でいようと思う。
「ちょっと洋平さん。ビールを持ち込むのはやめてくださいっていつも言ってるじゃないですか。」
「まあ、いいじゃない。マスターがいいって言ってるんだからさ。カズト君も飲むかい?」
「飲まないですよ。仕事中ですから。」
それを聞いて洋平とよばれた客は、あごに生えた短いひげをいじりながら、ふふん、と笑う。
いつもこうだ。軽くいなされているようで、どうにもカズトにはしゃくにさわる。
「まったく。そんないいかげんで、よく社会で通用しますね。」
「知ってる?これでも仕事はものすごくできるんだよ。びっくりしちゃうよ。」
「そんなの、見なきゃ信用できません。」

マスターはやれやれ、またはじまったかと思った。
大人の男に対して、会話の勝ち負けにこだわるのはカズトくんの悪いくせだ。
しかし、そんな二人の間に入って会話をとりもつことはマスターにとって、たやすいことだった。
「仕事って、洋平君の本職はプログラマーだよね。なんかそうは見えないけど。」
あきらかに安くはないと思われる古着のシャツに、色落ちしたジーンズにギターという姿は、
プログラマーというよりは、そのまま今時のミュージシャンのようだ。



「平日は、プログラマー。そして日曜はギターの講師。まあ、どちらも同じ僕ですよ。」
洋平がギターをかかえて店にやってくるのは、きまって日曜だった。
「その2つは、まったく種類のちがう職業ってかんじがするけどもね。」
「そんなことないですよ。見ててください。プログラマーのときがこう。」
そういって、洋平はかたかたと指を動かしキーボードをうつ真似をした。
そしてギターのとき、と言って今度ははげしい動きでギターをかきならす格好をし、
きゅうにばっと顔をあげ、ほらね、と言ってカズトを見た。
なにがほら、なのかわからず、カズトはめんくらってしまった。

「この手の中の限られた範囲から、一方はいろんなプログラムの言葉が、
一方はメロディーが無限に生まれ、ひとつのかたちをつくっていく。ほら、同じだろ。」
伝えたい内容にあわせて手を動かしながら、洋平は説明する。
「なるほど。でも同じだって言うんなら、ギターではなくピアノのほうがキーボードに近いね。」
マスターは鼻歌を歌いながら、鍵盤をならす格好をした。
「まあ、確かにそうですね。僕にとっては、実際なんでもよかったんです。楽器なんて。」
「なにか思い入れがあってギターをひいているんじゃないのかい?」
マスターの声は、人の心を素直にさせてしまうような不思議なひびきがある。

  次のページ

Soup Dinner Topへ戻る  
welcome to soup dinner キャンベルホームへ