welcome to soup diner

vol.6 マスターの場合

「こんなところに、こんなに素敵なお店があるなんて。道にまよった甲斐があったわ。」
そういいながらその女性は、かかえていた荷物を床におき、ほっと息をはいた。
「どちらへいかれるところだったんですか?」
聞くと、彼女はポケットから丁寧にたたまれた地図をだし指をさした。
「ここに行きたいんですけど。わかります?」
見ると赤いペンでしるしが付いていた建物は、ここからそう遠くはないが、
彼女のもっていた地図でたどり着くには多少複雑な場所だった。
「新しい地図を書いてさしあげますよ。ちょっとお待ちください。」
その言葉ににっこり笑うと、彼女はカウンターにゆっくり腰をかけた。

「どちらからいらしたんですか?」
なるべくわかりやすいように大きめに地図をかきながら訪ねた。
「北海道からですよ。さっきついたんです。」
なんでもないことのようにさらっという彼女の言葉に少し驚いた。
そんな自分の表情に気づいた彼女は、どこか得意げな笑みをうかべた。
「こんなおばあさんが、ひとりで北海道からでてくるなんて変でしょう。」
そういっている本人がちっとも変だと思ってないようすがおかしくて、
ちょっと変ですね、と言うと二人して、くつくつと笑った。



「これから孫に会いにいくんです。」
かきあげた地図を丁寧にたたみながら、はずんだ声で彼女はいった。
「彼氏ができたよって手紙をくれたんで、おめでとうって言ってあげたくて。」
ここで自分がお店をやっていなかったら、こんな素敵な人に出会うことはなかっただろう。
それだけでこれまでの不安がすべて、なんでもないことのように思えた。
「ぼくからも、おめでとうと言っておいてください。」
「ありがとう。伝えておきますよ。ここにこんなすてきなお店があるということもね。」
そうして彼女はスープの名前はよくわからないから、と前おきをしてこんな注文をした。
「あまくてあったかいスープをいただけますか。」

浅川マスターのスープなるほどコネタ

あの日以来、人生を素敵に楽しんでいる彼女のように、
自分もいろんなお客との出会いを楽しめばいいんだ、と思うようになった。
お客さんに、あったかい気持ちになってもらえるスープが出せればそれでいい。
すると不思議なことに、徐々に客もふえていった。
さて、今はひとりの時間を楽しもう。あの日彼女が、
北海道の味ね、といって喜んでくれたコーンポタージュでも飲みながら。


END.


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