vol.5 常連客 朋恵(ともえ)の場合
「プール、海、遊園地。 もー。せっかく夏なのに、どこにもいけないよー!」
そういって、さっきからカウンターでストレスを爆発させているのは、
ただいま受験勉強真っ最中の高校3年の朋恵。
「はあぁー。なんのために勉強なんてするんだろう。」
「まった。そんなめんどくさいことに疑問をもちはじめるとなんにもできなくなるよ。
微分積分なんて将来必要ない!なんて言い始めたら、もう末期だぞ。」
「あ。すでに思ってる。なんでわかるの、カズトさん。」
「そりゃあ、ぼくも2年前は朋恵ちゃんと同じ立場だったからね。とーぜん。」
「うわー。なに、その余裕な態度。ずるーい!」
どこか得意げなカズトの様子に、抗議したかと思うと朋恵は急におとなしくなった。
そしてもう一度「ちぇっ、ずるいなあ」と、言うと完全に黙ってしまった。
怒らせたかと思って、ごめんごめんとあわてるカズトと対照的に、マスターは
この年頃の女の子は大さわぎしたりおとなしくなったり忙しいものだ、と微笑ましく見ていた。
朋恵の頭にはふと、「ずるい」と思ったある人の顔がうかんだのだ。
それは同じバイト先の3歳年上の大学生の男の子。
クールで大人っぽいが、笑うと小さくなる目がとてもかわいい。朋恵は今、彼に片想いをしている。
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