vol.4 常連客 憲男(のりお)の場合
今日は七夕。カウンターの窓際におかれた笹の枝には、お客さんが
書いていった短冊が、夏の気配を感じさせるゆるやかな風にゆれている。
「マスター。ぼくの短冊も一緒に飾っていいですか?」
カズトは『無事に単位がとれますように』と書かれた短冊をひらひらさせた。
「いいよ」と笑いながら、またこの季節がやってきたんだな、とマスターは思った。
ふと店のドアが開き、よく日に焼けた顔に爽やかな笑みを浮かべた男性が入ってきた。
「驚いたな。ちょうどやってくるころじゃないかな、と思っていたところだよ。」
「おひさしぶりです、マスター。お変わりなさそうですね。」
二人の様子から、彼は常連客だろうと判断したカズトだったが、どうにも見覚えがない。
「カズトくんは、去年の今日はまだここでバイトをしていなかったからね。
彼は憲男くんといって、毎年この日に、うちにきてくれるんだよ。」
マスターに紹介された憲男は、「やあはじめまして」とカズトとあつい握手をかわした。
まっすぐ接してくる憲男に、カズトはすぐに好感もち、早速疑問に思ったことを聞いてみた。
「どうしてこの七夕の日だけいらっしゃるんですか。」
「ぼくは高校生の最後の年から毎年ここで短冊を書いているからね。今さらやめられないんだよ。」
カウンターの上の短冊をひとつ手にとり、今年で10枚目、といって笑った。
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