welcome to soup diner

vol.4 常連客 憲男(のりお)の場合

今日は七夕。カウンターの窓際におかれた笹の枝には、お客さんが
書いていった短冊が、夏の気配を感じさせるゆるやかな風にゆれている。
「マスター。ぼくの短冊も一緒に飾っていいですか?」
カズトは『無事に単位がとれますように』と書かれた短冊をひらひらさせた。
「いいよ」と笑いながら、またこの季節がやってきたんだな、とマスターは思った。

ふと店のドアが開き、よく日に焼けた顔に爽やかな笑みを浮かべた男性が入ってきた。
「驚いたな。ちょうどやってくるころじゃないかな、と思っていたところだよ。」
「おひさしぶりです、マスター。お変わりなさそうですね。」
二人の様子から、彼は常連客だろうと判断したカズトだったが、どうにも見覚えがない。
「カズトくんは、去年の今日はまだここでバイトをしていなかったからね。
 彼は憲男くんといって、毎年この日に、うちにきてくれるんだよ。」
マスターに紹介された憲男は、「やあはじめまして」とカズトとあつい握手をかわした。
まっすぐ接してくる憲男に、カズトはすぐに好感もち、早速疑問に思ったことを聞いてみた。
「どうしてこの七夕の日だけいらっしゃるんですか。」
「ぼくは高校生の最後の年から毎年ここで短冊を書いているからね。今さらやめられないんだよ。」
カウンターの上の短冊をひとつ手にとり、今年で10枚目、といって笑った。



「憲男くんは高校生のころ、このへんじゃ有名なエースストライカーだったんだよ。」
「昔の話ですよ、マスター。僕はいまや、しがないスポーツライターですから。」
「へー。スポーツ雑誌かなにかの記事を書かれているんですか?」
「ああ、そうだよ。ただし日本のではなく、ヨーロッパのほうのサッカー雑誌だけどね。
 今は向こうで仕事をしていて、日本には年に1回だけこの時期に戻ってくるんだよ。」
「わざわざ七夕の日にあわせて、ですか?」
「まあ、そうかな。10年前、この7月7日がちょっと特別な日になってしまったのでね。」

当時、まだ高校生だった憲男はサッカー部で青春をボールにぶつけていた。
そしてそこには、憲男と同じセンターフォワードでとても仲の良かった高志という親友がいた。
喧嘩もたくさんしたが、試合では二人の息のあったコンビネーションで多くのゴールを決め、
将来は一緒にサッカー留学をしプロを目指そうという夢を語り合っていた。

10年前の今日、部活帰りにこのスープ・ダイナーで、憲男は
部室にスパイクをとりに学校へ戻った高志と待ち合わせしていた。
なかなか店にやってこなかったので、冗談半分でお店にあった短冊に、
「高志、早く戻ってこい。」と書いて笹の枝に飾った。
だが、その願いがかなうことはなく、次に憲男が高志に会ったのは病院だった。

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