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vol.3 常連客 ユリ子の場合

「あまりにもあっけなくて。普通、父親って娘の結婚に反対するものじゃない?」
自分でも子供っぽい感情だということはわかっている。
実際、反対されたらそれはそれで困るのだが。でも。それでも。
「私がお嫁にいっちゃうこと、お父さんは全然平気なのかなと思うと
 手紙もなんて書いたらいいのかわからなくなっちゃって。」
わたしはこんなに寂しいのに、と言って普段見せない表情をするユリ子に、
少し驚いたカズトは、おもわず目をそらせた。

「平気だなんて。そんなことは絶対にないですよ、ユリ子さん。」
「そうかしら。」
「人の心はそんなにシンプルじゃない。コンソメスープと一緒ですよ。」

浅川マスターのスープなるほどコネタ

「口にはしなくても、きっとお父さんも寂しいと思っていますよ。
 男親というのは、そういうことは恥ずかしくて言えないものです。」
いろいろな感情を心にしまって、笑顔で「おめでとう」と言ってくれた父親。
それを思うと、ユリ子は目の奥があつくなった。



「でも、『ユリ子もやっと片づいたか!』と思ってるかもしれないですよ。」
「『やっと』って、もう。ほんと失礼ね。」
カズトの言葉にいつもの笑顔に戻ったユリ子は、ふと自分の左手を見た。
もうすぐ指輪がはめられる手。そしてそれは昔、よく父と一緒に歩くときにつないだ手だ。
そういえば、あのときも今日のような霧雨がふっていたんだっけ。
子供の頃、母に怒られ家を飛び出し、いつもいく公園で泣いていたあの日。
大きなこうもり傘をもってむかえにきた父と一緒に手をつないで帰った。
今でもはっきりと覚えている。あのときの父の手はとても暖かかった。

「ねえ、マスター。今なら父へあてた手紙が書ける気がする。」
「それはよかった。今からコンソメスープを用意するからじっくり考えて下さい。」
これはサービスだから、と付け加えてマスターはコンロの火をつけた。

「今日はきっと独身最後の『スープダイナー』ね。」
その言葉にカズトはしばらくまじめな顔でユリ子を見ていたかと思うと
窓の外を見て少しすねたように、僕はやっぱり6月がきらいですね、とつぶやいた。
マスターは長年の勘から、おや、ここにもコンソメスープのような男がいたのかな、
と思ったが、それは気付かなかったことにした。


END.


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