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vol.3 常連客 ユリ子の場合

「12ヶ月にランキングをつけるとしたら、6月は12番ですね。」
そう言ってカズトは洗った皿を拭いていた手を止め、外を見た。
さっきから、霧吹きでふいたようなこまかい点の雨が降り続いている。

「梅雨のこの独特な雨がいやなんですよ。
ドッサリと一気に降ってすぐにやんでしまえばいいのに。」
「ちょっとカズトくん。わたしはその6月に結婚するのよ。6月の悪口はストップ。」
そう言ってユリ子はカウンターのいつもの座っている席から抗議した。
「でもユリ子さん。6月は祝日もないんですよ。やっぱり最下位は免れませんよ。」
「カズトくんは大学生でしょ。あんまり祝日とか関係ないんじゃない?」

「まあ、そうですけど。」
ユリ子とカズトはいつも、軽口をたたきあっている。
まるで仲のよい姉と弟のようだとマスターはいつも思う。
「ユリ子さん、あらためて結婚おめでとう。もう結婚式の準備は終わったの?」
「ありがとう、マスター。ええもう、ほとんど終わり。
ただひとつだけ、大変な作業が残っているんだけど。」



「両親への手紙。これがなかなかペンがすすまないのよ。」
「両親への手紙って、あれですか?結婚式の最後のほうで読むやつ。」
そう、とうなずいてジューンブライドの花嫁は頭をかかえた。
「深く考えなくても素直に感謝の気持ちを綴ったらいいんじゃないかな。」
「うーん。まあね、マスターの言うとおりなんだけど。
 母にあてた部分は言いたいことがすらすらと出てくるのよ。
 ところが父のところになると、どうしても止まってしまうの。」
「それはどうして?」
どうしてか、とユリ子は考えこんだ。

母親とはなんでも気軽に話合うことのできる友達同士のような関係だ。
嬉しいときは一緒に笑い、悲しいときには一緒に泣いてくれた。
そして父親は、いつか追いつきたい尊敬できる先生のような存在だった。
言葉はすくなめだが母親とはまた違ったかたちで、いつも暖かく大きく家族を見守っていた。
結婚したい人がいると告げたときも、笑顔で一言「おめでとう」と言ってくれた。

「わたしがひっかかってるのはそこなの。」
マスターとカズトは、同時に「なぜ?」と聞いていた。

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