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vol.2 常連客 圭子(けいこ)の場合

キレイな色のフェルト生地に、いろんな模様がプリントされている手提げバッグ。
それが圭子の小さなお店の商品だ。手作りなので1ヶ月に10個製作できればいいほうで
売上もほとんどないようなものだが、
それでも商品が売れたときにはこのうえない充実感を感じる。
それは10年前、息子の健太が誕生したときの気持ちと似ていた。

「このあいだなんかね。キャリアーウーマンっぽい女性が買ってくれたんだけど、
ちょうどこんなノートパソコンを入れるバッグがほしかった、って言ってくれたの。」
「確かに圭子さんのバックは、いろんなシーンで使えそうだけど。ノートパソコンとは。」
「もとは健太のお弁当入れだったのにね。ふふっ」
カウンターにひじをついてほんとうに嬉しそうに話す圭子に、
マスターもアルバイトのカズトも思わず笑顔になる。

もともと手先が器用な圭子が息子のために作った、手作りお弁当手提げバッグ。
ある日、それを見た息子の友達のお母さんの一人に
自分の子供の分も作ってほしいと頼まれたことがお店をはじめるきっかけだった。
「健太のお友達10人くらいに作ってあげたときかな。旦那が思いがけないことを言ったの」



「あるときふと、これは売れるんじゃないか、って。
 場所も家のガレージを改装して使えばいいって。
こっちはびっくりしたわよ。そりゃ、お裁縫は少しは得意よ。でも所詮は素人なんだもの。」
「それがいいんじゃないですか。既製品にはない心がこもってる感じが僕は好きですよ。」
「ふふ。嬉しいこと言ってくれるわね。じゃ、カズトくん、彼女のためにおひとつどう?」
「えーと。…彼女ができたらそうします。って、ちょっとマスター!笑わないでください。」

笑い声であふれたダイナーは今日も平和とばかりに外でねこがあくびをしていた。
「でも価値があるものは、世の中に出してあげたほうがいいんですよ。」
「あら、マスター。旦那と同じことを言うのね。」
圭子はそう言った時の実直で少し無口な自分の夫の表情を思い出していた。
「ほんとにそう思う?」と聞いた圭子に、夫は笑顔で「そう思うよ。」と言ってくれたのだ。
そんな顔を久しぶりに見たような気がしたし、今まで見過ごしていたのかも、とも思った。

「おもいきってお店をひらいてよかったわ。毎日忙しいんだけど、とっても楽しいの。」
たしかに圭子の表情は、いきいきとしている、とカズトは思った。
「なんだか圭子さんは最近若々しくみえますよ。」
そういったカズトの言葉に、店内はまた笑いにつつまれた。

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