welcome to soup diner

vol.1 常連客 晴道(はるみち)の場合

「やっぱりこの時期のボストンは寒かったですよ、マスター。」
カウンターに静かに腰かけ、晴道は先週まで行っていた
東アメリカの街の報告していた。
「そうだろうね。確かボストンの緯度は日本の北海道とほぼ同じだったはずだよ。」
晴道は10年ほど前ボストンに留学をしており、毎年この季節になると、
当時のホームステイ先のファミリーに会いにボストンを訪れていたのだ。

「でも毎年会いにいくなんて、律儀ですね。」
横からアルバイトのカズトが口をはさむ。
「僕なんか2年くらい実家に帰っていないくらいなのに。」
「今年の夏休みあたり、帰郷して親孝行でもしてきたら?」
「え?でもマスター、僕がいない間お店はだいじょうぶですか?」
マスターは、目を三日月形にして「どうにかなるよ」といたずらっぽく笑った。

「でも実は、毎年ボストンに行くのはホストファミリーに会うためだけじゃないんです。」
「ほう。それはどういうこと?」



「にぶいなぁ、マスター。僕はわかりますよ。向こうに好きな女性がいるんですよね。」
「はははっ!まあそんなようなものかな。でも…」
晴道は、その人に会うためには2つの条件が必要なんだけどね、
と前置きをして「1つめ」と人差し指を出した。
シュンシュンと音をたてていたやかんの火をとめ、
マスターは興味深げに体の姿勢を正した。

「ジャン・フランソワ・ミレー」
はてな顔をしたカズトとは対照的に
マスターは了解した顔で「ボストン美術館」とつぶやいた。
「そうです。条件その1。ボストン美術館にあるミレーの代表作『種まく人』を見ること。」
「『種まく人』って?あの美術の教科書にのってたやつですか?」
「そうだよ。あの暗い色彩のなかにも確かに感じられる実りへの期待感が大好きなんだよ。」
「ボストンがアメリカ建国の地であるってところが、また象徴的だよね。」

歴史的絵画の話題で話がはずむもの知りな大人二人に感心しながらカズトは訪ねた。
「で、2つめの条件ってなんなんですか」

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